2025/08/03 18:10

開封した瞬間、鼻に抜けるのは独特な匂い。
植物性とは違う、どこか野性的な獣脂と魚脂のブレンド。
それが、「クロムエクセル」である。
この革は、普通ではない。
ホーウィン社が100年以上にわたって継承してきた“オイル漬けのレシピ”によって、
圧倒的な量の油が革の芯まで染み込んでいる。
しっとりと柔らかく、ぬめりを感じるほどに潤った手触り。
その表面には、まるで古い鉄器のような“鈍い光沢”があり、
革とは思えないほどの重厚な存在感を放っている。
そして、その過剰さこそが、最大の個性だ。
なぜクロムエクセルなのか?
クロムエクセルは、アメリカ・ホーウィン社の伝統製法によって生まれた。
植物タンニンとクロムを併用した“コンビ鞣し”に、独自のオイルをじっくりと浸透させる。
その結果、この革は「潤いと柔らかさ」「変化と復元力」という両極を併せ持つ。
指に吸い付くような質感。
力を加えると“プルアップ”が起き、色が揺れ、やがて戻る。
そんな揺らぎの中で、確実に革が“育って”いく感触を得られる。
ただしこの革は、万人向けではない。
キズが入りやすく、色も変わりやすい。
だが、その“不安定さ”を“味”と捉えられる人こそ、
クロムエクセルを持つ資格がある。
トラッカーズミニという“小さな舞台”
この革の変化を最も繊細に感じ取れる形状として、
KAIJI ENDOは“トラッカーズミニ”という器を選んだ。
わずかH80×W110mm。
それでも、札・カード・名刺・小銭がしっかり収まる設計。
使いやすさと携帯性のバランスが絶妙で、
「毎日持ち歩ける道具」として、日々の変化を確実に映し出す。
そしてこのモデルでは、あえて裏張りを施し、両銀面仕立てとしている。
見えない部分にまで同じクロムエクセルを用い、床面を一切見せない。
この仕様がもたらすのは、使用時の快適さだけではない。
“手に触れるすべての面で経年変化を楽しむ”という美学だ。
手のひらで育つ、変化の塊

クロムエクセルは、もともとワークブーツに使われる耐久革だ。
湿気にも擦れにも強く、過酷な環境でこそ真価を発揮する。
財布に仕立てたとき、その変化はさらに加速する。
わずか数週間で、艶が生まれ、色が深まり、手に馴染む。
それは“エイジング”というより、“変化の爆発”だ。
触れるほどに濃淡が出て、使い方そのものが模様になる。
名刺の角が跡を残し、カードの重みが形を変える。
生活そのものが、革に転写されていく。
これは「飾るための財布」ではない
KAIJI ENDOの製品に、ブランド刻印はない。
あるのは、使い込んだ人間の痕跡だけ。
このトラッカーズミニは、あなたを飾らない。
だが、あなたの日常に静かに寄り添い、雨にも汗にも耐えながら、確かな変化を刻み込んでいく。
クロムエクセルは、希少革ではない。
けれど、数ヶ月後のその革は、どんな高級革よりも“あなただけの表情”を持っている。
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