JOURNAL

2025/07/21 02:53

開封した瞬間、鼻に抜けるのは独特な匂い。
植物性とは違う、どこか野性的な獣脂と魚脂のブレンド。
それが、「クロムエクセル」である。
この革は、普通ではない。
ホーウィン社が100年以上にわたり受け継いできた「オイル漬けのレシピ」によって、
圧倒的な量の油を革の芯まで染み込ませている。
柔らかく、しっとりしていて、まるで革が生きているような手触り。
表面には、まるで鉄器のような“鈍い光沢”があり、革とは思えない重厚感がある。
その過剰さこそが、最大の個性だ。

なぜクロムエクセルなのか?

クロムエクセルは、アメリカ・ホーウィン社の伝統製法によって生まれた。
植物タンニンとクロムを併用した“コンビ鞣し”に、独自に調合されたオイルを芯まで浸透させることで、他の革にはない「潤いと柔らかさ」を持っている。
指に吸い付くような質感。
力を加えると“プルアップ”が起き、色が揺れ、やがて戻る。
変化の連続。揺らぎの連続。
その中で、確実に革が“育って”いくのがわかる。
だがこの革は、誰にでも向いているわけではない。
キズも入りやすいし、色も早く変わる。
だが、それを“味”として楽しめる人だけが、クロムエクセルを選ぶ資格を持つ。

トラッカーウォレットという“器”

KAIJI ENDOがこの革を選び、財布に仕立てた理由は明確だ。
それは、「毎日使う道具」こそ、最も早く革が育つ舞台だからだ。
約20枚のカード、コイン、札、領収書。
それらを無造作に突っ込んでも、革はすべてを包み込む。
馴染みが早く、柔らかいが、決して弱くはない。
このトラッカーウォレットは、裏張りをしていない。
床面はむき出し。コバは手で磨き込まれ、自然なエイジングを受け入れる準備ができている。
手の汗、金属の汚れ、湿気、それらは汚れではなく「経年変化の燃料」だ。

変化を叩きつける革

クロムエクセルは、もともとブーツ用の革として知られている。
耐水性があり、ワークブーツのような過酷な環境に耐える強さがある。
だからこそ、財布に使うと、圧倒的な速度で変化が現れる。
ほんの数週間で、色が深まり、鈍い艶が現れ、手に馴染む。
触れるほどに濃淡が出て、使い方そのものが模様になる。
まるで、自分の生活が革に転写されていくような感覚。
これは、“味”が出る革ではない。
“変化”を叩きつけてくる革だ。

これは「飾るための財布」ではない

このトラッカーウォレットには、ブランド刻印がない。
あるのは、使い込んだ人間の痕跡だけ。
この財布は、あなたを飾ってはくれない。
ただ黙って寄り添い、雨にも汗にも抗いながら、あなたの毎日を記録し続ける。
クロムエクセルは希少革ではない。
だが、数ヶ月使えば、どの高級革よりも深く、あなたに染まる。

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