2025/05/06 03:01
革製品に“完璧さ”を求める声は、確かに存在します。
無傷で、均一で、左右対称に整った腑模様。
「まるで工業製品のように仕上げられた革こそ、本物であり上質である。」そう思われがちです。
けれど私は、その価値観に一石を投じたいと考えました。
■「傷」ではなく、「痕跡」として
革は、命ある動物の皮膚を原材料としています。
そしてそれは、輸送・鞣し・染色・製品製造という多くの工程を経て、一つの製品となっていきます。
その過程で、ごくわずかな押し跡やしわ、色の濃淡が現れることがあります。
通常であれば「訳あり」とされ、弾かれてしまうような革たちです。
しかし、私はそうした革にこそ、素材の真実味が宿っていると感じています。
それは「欠点」ではなく、革が歩んできた道の“痕跡”。
職人の手が実際に触れた“証”でもあるのです。
■「Rough Track Series」という思想
このシリーズに使われている革は、あえてその痕跡を隠しません。
完璧ではない。
だからこそ、一点ずつに宿る表情があり、深みがある。
「Rough Track(ラフ・トラック)」とは、直訳すれば「荒れた道筋」。
その言葉のとおり、革が辿ってきた旅路をそのまま形にしたシリーズです。
■ 使い込むほどに、自分の革になる
お手元に届いた時点では、わずかな痕が見えるかもしれません。
しかしそれは時間とともに、手に馴染み、革に深みを与えてゆきます。
その過程で、“自分だけの革”へと変化していくのです。
それは、新品の状態が美のピークではないということ。
むしろ、日々の使用とともに味わいを増すことこそ、本質的な魅力であると私たちは信じています。
■ 量産にはない、個性の肯定
大量生産されたものにはない、手仕事の痕跡。
無傷至上主義から一歩離れ、革の本質を見つめ直すシリーズとして、
この「Rough Track Series」を立ち上げました。
どうかこの思想に共鳴し、手に取ってくださる方に、静かに届きますように。
