JOURNAL

2025/05/06 03:01

革製品に“完璧さ”を求める声は、確かに存在します。
無傷で、均一で、左右対称に整った腑模様。
「まるで工業製品のように仕上げられた革こそ、本物であり上質である。」そう思われがちです。
けれど、その価値観に一石を投じたいと考えました。

「傷」ではなく、「痕跡」として

革は、命ある動物の皮膚を原材料としています。
そしてそれは、輸送・鞣し・染色・製品製造という多くの工程を経て、一つの製品となっていきます。
その過程で、ごくわずかな押し跡やしわ、色の濃淡が現れることがあります。
通常であれば「訳あり」とされ、弾かれてしまうような革たちです。
しかし、私はそうした革にこそ、素材の真実味が宿っていると感じています。
それは「欠点」ではなく、革が歩んできた道の“痕跡”。
職人の手が実際に触れた“証”でもあるのです。

「Rough Track Series」という思想

このシリーズに使われている革は、あえてその痕跡を隠しません。
完璧ではない。
だからこそ、一点ずつに宿る表情があり、深みがある。
「Rough Track(ラフ・トラック)」とは、直訳すれば「荒れた道筋」。
その言葉のとおり、革が辿ってきた旅路をそのまま形にしたシリーズです。

使い込むほどに、自分の革になる

お手元に届いた時点では、わずかな痕が見えるかもしれません。
しかしそれは時間とともに、手に馴染み、革に深みを与えてゆきます。
その過程で、“自分だけの革”へと変化していくのです。
それは、新品の状態が美のピークではないということ。
むしろ、日々の使用とともに味わいを増すことこそ、本質的な魅力であると信じています。

量産にはない、個性の肯定

大量生産されたものにはない、手仕事の痕跡。
無傷至上主義から一歩離れ、革の本質を見つめ直すシリーズとして、
この「Rough Track Series」を立ち上げました。
どうかこの思想に共鳴し、手に取ってくださる方に、静かに届きますように。


JOURNAL Top